知識ゼロからのロッカー講座

まずはキャンバーを知ろう!

理解すれば欲しくなる!

今季、一気に注目を集めるようになったロッカースキー。 ショップにはたくさんのロッカースキーが並んでいるが、「そもそもキャンバーとかロッカーって何!?」という人も多いはず。 
そこで、ロッカーとは何かを知るべく、プロショップのスタッフを直撃取材。 手取り足取り、ゼロからみっちりレクチャーしてもらった。 理屈がわかれば、あなたもきっと欲しくなる!

Q01「キャンバー」や「ロッカー」という言葉が使われているけど、いったいどういう意味?

ロッカーの前に、まずはキャンバーについて説明しましょう。 通常のスキー板は平らなところに置くと、センター部分が弓なり状に浮き上がっていますね。 この浮き上がった部分をキャンバーと呼びます。英語では「camber」と綴り、「上反り」という意味です。

Q02 「ベンド」という言葉も聞くけど、キャンバーとは違うの?

同じ意味合いで使われることもありますが、分けて考えることもできます。 ベンド(bend)は、アーチベンド(arch bend)とも呼ばれ、「湾曲」や「曲がった状態」を意味します。 キャンバーが雪面からの反り具合の高さを示すのに対し、ベンドは湾曲した形状そのものを示していると言えるでしょう。

Q03 そもそも、キャンバー(ベンド)は何のためにあるの?

トップからテールまでスキー板全体をまんべんなく加圧するためです。 仮に、スキー板にキャンバーがなく、真っ平らだったとしましょう。 その状態でセンター部分に圧をかけると、トップとテールが浮き上がってしまい、スキー板全体を均等にたわませることができません。 センターにキャンバーがあることによって、スキー板の面圧を一定に保つことができるのです。

Q04 上反りの高さや強さは滑りに影響するの?

もちろんです。カービングスキーが登場する以前は、スキー板にサイドカーブがなかったのでターンの方向づけはスキーヤー自身が行なっていました。 ですからベンドの硬さが重要でした。 プロショップには「ベンダー」という機械があり、スキー板のベンドを調節することができます。 たとえば何度も滑ってクタクタになったスキー板はベンドが緩くなりますから、ターン中にスキー板がずれやすくなります。 こうしたスキー板を調節し、張りを強くしたりするのです。 逆にベンドを強くしすぎるとスキー板がたわまなくなるので、脚力の強い人でないとターンできなくなってしまいます。 

ロッカーの仕組みを知ろう!

Q05 では、ロッカーはどういうスキー板のことなの?

ロッカーは、キャンバー部分をひっくり返したような形状のスキー板を指します。 もっとも極端なロッカースキーは、センターの上反りがなく、板全体が船底のようなラウンド形状をしています。 ロッカー(rocker)には、「揺りかごや揺り椅子などについている弓形の底材」という意味がありますが、スキー板の形がこれに似ているところから名付けられたのでしょう。

Q06 ロッカーは具体的にどの部分を指すの?

もともとスキー板はトップが上を向いていますので、一見しただけでは、ロッカー部分とトップの境がわかりづらいかもしれません。 一般的には、通常のトップの位置よりもセンターに近いところから反り上がっている部分をロッカーと呼ぶことが多いようです。 また2本のスキー板を合わせたときに、離れているところがロッカーのはじまりです。

Q07 ロッカーにもいろいろな種類があるの?

ロッカーにはたくさんの種類があります。 メーカーによっても呼び方はまちまちなので、単純に「ロッカー」という名称だけでスキー板を選ぶと失敗してしまう恐れがあります。 たとえば、図のように大きく分けて4つのタイプが考えられるので、知っておくとよいでしょう。 どの部分にロッカー形状が採用されているかを見極めるようにしてください。

Q08 「接雪点」や「接雪長」という言葉が出てくるけど、どういう意味?

接雪点はフラットの状態でソールと雪面が接している点のこと。接雪長はターン中に雪面に接しているエッジの長さを指します。 フラットの状態では、ロッカー部分が雪面についていないので接雪点はセンター寄りになり、 ターンが始まってスキー板が傾き始めるとロッカー部分が雪面に接するので接雪長は長くなります。

ロッカーという言葉にとらわれるな (ICI石井スポーツ 小泉則男)
ロッカースキーを考えるとき、どうしても「ロッカースキーは○○というもの」といった定義付けをしたくなってしまうかもしれません。 日本人は何でもカテゴライズしたがる性質がありますが、 たとえば「ロッカースキーはトップが20%以上反り上がっているもの」というように、無理に決めてかかると本質を見失いかねません。 「ロッカースキー」というジャンルでひとくくりにしてしまうのではなく、 「機種ごとに反り上がりの度合いが異なる」というくらいにとらえていたほうがいいのではないかと思います。

ロッカーのメリットを知ろう!

Q09 ロッカー形状にすると、どのようなメリットがあるの?

ロッカースキーは接雪長が短いため、雪面から受ける抵抗が少なくなります。 具体的には、トップやテールがひっかからず、スキー板をまわしたり、方向を変えたりすることが楽になります。 一番のメリットは、スキー板を自分の思いどおりに操れるということでしょう。 とくにターン導入がしやすいところは大きな利点と言えます。 

Q10 どのようなスキーヤーに向いているの?

機種によって対象スキーヤーは異なりますが、一般的には初中級者に向いていると思います。 初中級者がスキーをするうえで課題となるのは、スキー板が勝手に進んでしまい制御できなくなることです。 ロッカーはスキー板を横にして減速したり、止まったりすることが容易にできるので、ビギナーでも恐怖感なく滑ることができます。


Q11 競技用のスキーにもロッカーモデルはあるの?

あります。【以下は、2011年9月現在の情報です。】 
ロシニョールのGS用のスキー板がロッカーを採用しています。 これは、FISのレギュレーションが変わることがひとつの要因になっていると考えられます。 現在の回転半径(ラディウス)は27m以上ですが、2012/2013シーズンより、ワールドカップの男子GSではスキー板の長さが195cm以上、 回転半径は35m以上に変更されることが決まりました。 これによって、スキー板はサイドカーブの小さい寸胴な形になっていきます。 この形状ではエッジを噛ませてもターンできないので、ピボット操作が必要になります。 結果的にピボット操作のしやすいロッカー形状がGSスキーに取り入れられていくのではないでしょうか。 すでにヨーロッパでは、他のメーカーもGS用のロッカースキーをテストしているようです。

Q12 ロッカースキーでもカービングターンはできるの?

ターン中はスキー板が傾いてエッジ全体が接雪するので、カービングターンが可能です。 ただし、ロッカー部分が浮いていることは変わらないので、カービングスキーに比べると、とらえが甘いと感じられるかもしれません。

Q13 ロッカーによってGSの滑り方も変わるの?

変わってくる可能性は充分あります。新しいレギュレーションは20年から30年くらい前のレギュレーションと同じ値です。 つまりスキー板も当時と同じプロポーションになるのです。昔で言う「スウィング&グライド」のようなテクニックが使われるようになるのではないでしょうか。

Q14 GSでは、ロッカースキーとカービングスキーが描くシュプールは違うものになるの?

当然、変わってくるでしょう。カービングターンのように2本のシュプールがきれいな円を描くということはないと思います。 最近は、ポールセットの振り幅が広くなっているので、レールターンを描き続けることができなくなっているという側面もあります。 具体的には、切りかえの後に、もともと想定されたラインよりも内側から次のターンが始まるということになると思います。

2本のレールが連続するターン孤

ターン前半にピボット操作が入るターン弧


Q15 接雪長が短くなると、不安定になるんじゃない?

いえ、ターンを続けているという前提では不安定になることはありません。 フラットの状態では接雪長が短いのでキョロキョロしますが、ターンに入ればスキー板が傾くことによって接雪長が伸びていき、安定感が高まります。 「静」から「動」に移るにつれて安定していくというのがロッカースキーの特徴です。 

Q16 どのようなシチュエーションに向いているの?

ロッカースキーは通常のスキー板よりも接雪長が短くなるので、これまでと同じ長さのスキー板で滑ると当然短く感じます。 操作性は高まりますが、その反面、スピード域が上がってくるとやや物足りなさを感じてしまうかもしれません。 今までどおりの安定感を求めるのであれば、ワンサイズ長いものを選んだほうがいいでしょう。
スキー板を横から見るべし (ICI石井スポーツ 小泉則男)
私たちはスキー板の特性を見る際に「Look from the side」という考え方を提案しています。 文字どおり、「スキーを横から見てみよう」というコンセプトです。 キャンバーがきつければ切れ味の強いスキー板、弱ければまわしやすく操作性の高いスキー板というイメージになります。 私たちのカタログには「横から見た場合の接雪長の長さ」という項目を掲載していますが、今後、この流れはもっと進んでいくかもしれません。

スキー板選びの新機軸
サイドから見たスキー板のスペック


ロッカースキーの選び方を知ろう!

Q17 ロッカースキーはどうやって選べばいいの?

まずは、どのようなスタイルで滑りたいかを考えましょう。 整地から悪雪までどんな斜面でも滑りたいという人には、ロッカースキーがいいと思います。 センターにキャンバーを残したタイプのロッカースキーは、通常のスキー板と同じ感覚で滑れるので、初めてトライする人に向いています。 初級者はトップよりもテールを動かすほうが楽なので、テール側にロッカーを採用したモデルがいいでしょう。 逆に、整地でギュンギュンのカービングターンを楽しみたいという人には、従来のキャンバースキーをお薦めします。 

Q18 長さの選び方はどうなるの?

ロッカースキーは通常のスキー板よりも接雪長が短くなるので、これまでと同じ長さのスキー板で滑ると当然短く感じます。 操作性は高まりますが、その反面、スピード域が上がってくるとやや物足りなさを感じてしまうかもしれません。 今までどおりの安定感を求めるのであれば、ワンサイズ長いものを選んだほうがいいでしょう。

Q19 上級機種にロッカースキーは少ない?

今のところ、ロッカースキーは中級クラスのモデルに採用されていることが多いようです(2011年9月現在)。 ロッカースキーは操作がしやすいので中級者に適しているのです。 トップモデルはハイスピードなカービングターンを想定しているため、必然的にロッカーの度合いは弱くなります。 エキスパート用からビギナー用に向かうにつれて、だんだんロッカー形状が強くなっていくと考えるとわかりやすいのではないでしょうか。 もちろん、上級者向けのロッカースキーもあるので一概には言えませんが、ひとつの目安として、技術レベルに応じた選び方をするとよいと思います。

レベル別のロッカーの度合い


Q20 トップモデルはフレックスが硬く、 エントリーモデルは軟らかいという考え方と同じ?

考え方は共通しています。「硬い」「軟らかい」という要素のほかに、「反り上がりが強い」「反り上がりが弱い」という要素が加わったということです。 そういう意味では、スキー板のスペックに3次元的な見方が増えたと言えるでしょう

Q21 ロッカースキーは、スキーヤーに どんな恩恵をもたらしてくれるの?

スキーは生涯スポーツと言われていますが、筋力や体力が落ちてきたスキーヤーにとって、 思い切り軸を傾けたり、鋭いカービングターンで滑ることは容易ではありません。 スキー板を身体から離して操作すると、乗り手に大きな負荷がかかります。 その点、ロッカーは足下での操作感が強くなるので、身体への負担が減り、スキーは楽しいものになるでしょう。 スキー板を自由自在に操れる。そういった恩恵はすごくあると思います。

三次元のテクノロジーに注目すべし (ICI石井スポーツ 小泉則男)
ここ数年、スキー板の技術革新は、平面から立体へと進化しています。カービングスキーではサイドカーブを絞ることでターンを容易にしました(一次元)。 次に、衝撃吸収やフレックス調整のための複合素材をスキー板に重ねて効率的なターンを可能にしました(二次元)。 そして、ロッカースキーでは、スキー板のベンドに着目し、立体的に構造を変えようとしています(三次元)。 次は、ロッカースキーに複合素材が搭載されていくことになるのではないでしょうか。

(協力=ICI石井スポーツカンダコンペカン)